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よく耳にするFFT解析。軸受診断に適用すると何がわかる?

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「FFT、よく聞くけれどイマイチわからない」「難しそう…」という方、大勢いると思います。でも、実はこのFFTも周波数の応用なのです。FFTと軸受診断について解説します。

発生している周波数を可視化するには?

 
回転機械から発生しているさまざまな音や振動は、低周波領域から高周波領域に至る周波数が交じり合った状態です。モーターが稼働している音だけではなく、それに伴い回転するシャフト(軸)やカップリング、軸受(ベアリング)の振動かもしれませんし、ポンプであればキャビテーションかもしれません。

(低周波領域)
● カップリングのミスアライメント
● 羽根のアンバランス
● 歯車の噛み合いによる振動
● ポンプのキャブテーション
● 軸受の振動 …etc.
(高周波領域)

これらの周波数を可視化するために用いるのがセンサです。センサの内部には圧電素子という部品が組み込まれており、この圧電素子に機械的な力やひずみがかかると、電圧が発生します。この性質を利用し、周波数を可視化するのですが、圧電素子の種類によって取得できる周波数領域が異なります。

例えば一般的な振動加速度センサが対象にしているのは、5-20kHz程度といわれており、私たちの可聴域もおおむねこの中に含まれます。圧電素子は水晶・ロッシェル塩でつくられることが多いようです。

一方、高周波数帯域の信号取得に有効な感度を備えているセンサも存在します。それがAEセンサで、PZT(ジルコン酸チタン酸・鉛)の圧電素子が使用されています。AEの周波数帯域は数10kHz~数MHzといわれており、私たちの可聴域よりもはるかに高周波領域です(周波数帯域には諸説あります)。

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時間軸波形と周波数スペクトル

 
下図は、センサが取得した電圧を個々の周波数に分解し、波形の時間的変化を示したものです(横軸:t)。これは時間軸波形と呼ばれています。

出力される周波数はさまざまで、電圧の強弱は振幅(波の高さ)であらわされます。振動計であれば、振動が小さい場合は電圧も小さく、振動が大きい場合は電圧も大きくなります。しかし、このような時間軸波形を見るだけでは、どの部位に起因する周波数なのか判別することができません。

voltage

そのため、この時間軸波形を基に、横軸に「周波数(波の個数)」を、縦軸に「振動の強弱(波の高さ=振幅)」をとったものが周波数スペクトルと呼ばれるもので、この波形を用いて診断を行います。

これらの時間軸波形を周波数スペクトルに変換する、すなわち計算機上で高速に計算するアルゴリズムのことをFFT(高速フーリエ変換)と呼びます。

周波数スペクトルを用いた軸受診断

 
では、軸受の診断に焦点をあててみましょう。軸受にはそれぞれ固有の損傷周波数というものがあり、軸径・型式・回転数などから算出することができます。最近では、製造メーカーのWebサイトに掲載されていたり、自動計算ソフトが組み込まれていたりしますので、そちらを使うと便利です。

卓越した周波数があった場合、損傷周波数(およびその整数倍)と合致するかを確認することで、軸受に損傷があるか否か、その部位を確認することができます。AEセンサで計測した具体的な例でみていきましょう。

ある軸受の周波数スペクトルを取得しました。すると、いくつか卓越した周波数があることが確認できます。一つ目は150Hzと200Hzの中間あたり、二つ目は350Hz近辺です(ここでは横軸:周波数、縦軸:dBの周波数スペクトルが出力されています)。

FFT spectrum

その軸受の損傷周波数を調べたところ、下記であることがわかりました。

● 転動体損傷周波数:130.992Hz
● 内輪損傷周波数:175.298Hz
● 外輪損傷周波数:145.369Hz
● 保持器損傷周波数:11.182Hz

この中では、内輪損傷周波数=175.298Hzと合致しそうです。さらに、二つ目のピークのある350Hzというのは、175の整数倍(2倍)にあたります。このことから、内輪に損傷が発生している可能性が疑われます。

このとき、診断パラメータの数値は初期の軽微な損傷の可能性を示唆していました。そのため、機械をストップし、開放を実施したところ、内輪に損傷を発見することができました。

inner race failure
※ 写真はイメージです。

このケースでは、AEセンサで、診断パラメータと周波数スペクトルを併用し、診断を行いました。

特に気を付けたいのは、玉(コロ、転動体)の損傷です。軸受の玉は一般的に内輪、外輪よりも固い素材でつくられています。仮に玉が破損すると噛み込みが発生し、機器停止に至る可能性が高いため、一般的に玉損傷周波数が検知された場合、軸受の交換時期とされています。

おわりに

 
どの部位で損傷が発生しているのかを判断するために、振動計が使用されることも多いです。当社が取り扱っている振動計では最大819200のライン数で振動測定ができるので、さらに高解像でFFT解析を行うことが可能です。

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定期的な軸受診断で不良を見逃さないようにしたいですね。

文/いしだ

※ 2022年12月 編集

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