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7.72016
参入が相次ぐ風車の保守・メンテナンス業界!なぜ今注目を集めている?
先日、ある展示会の説明を伺うため、営業の方と面会しました。その際、話題になったのが、「風車の保守・メンテナンス」。
最近、この業界への新規参入や事業拡大の動きが目立ってきているというのです。
確かに、風力業界の企業様より弊社にお問い合わせいただいたり、実際に製品をご購入いただいたりといったケースはここ数年増え続けています。
今回は「風車の保守・メンテナンス」がなぜ今注目を集めているのかを考察してみようと思います。
風力業界に新規参入する企業はどのような事業を展開しているの?
再生エネルギーとして今後ますます注目を集めること必至の風力発電。
だからといって、「じゃあ風車の整備事業をやろう!」と一朝一夕に成し遂げられるものではありませんよね。
2016年4月に日本経済新聞(※1)に掲載された記事では、
○ 自動車整備事業
○ クレーン事業
などを行っている企業の名が挙がっていました。
自社の強みや培ってきた知見を活かすことができる事業・業界でさらに成長し、地域に貢献していく。その流れはますます加速していきそうです。
なかでも、青森県でメンテナンス事業の参入が多くなっているとのこと。
その理由を調べてみました。
青森県は“風力発電の○○”が全国一!
さてここで質問です。
「風車の数日本一はどこの県だと思いますか?」
大半の方は「北海道」「秋田県」「山形県」などの東北地方をお答えになるのではないでしょうか。
正解は……
1位 北海道 2位 青森県 3位 鹿児島県 (2014年度/※2)
北海道や青森県は確かにと思うのですが、鹿児島に風車が多くあるというのは意外でした。
では青森県は何が全国一なのかというと……
“風力発電の設備容量”が全国一なのだそうです(※3)。
青森県の設置基数は北海道の約290基よりも約60基少ない230基前後のようですが、発電効率は青森県のほうが高いんですね。北海道は雪が多く、冬場の風車をストップさせる期間が必然的に長くなるでしょうから、そういった要因もありそうです。
◆一口メモ◆ かなり意外だったのが、宮城県には風車が1台も設置されていないこと(2015年3月末時点)。 2003年に実証実験は行っていたようですから、莫大な投資コストを回収できない土地柄だったということでしょうか。
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風車の設置には億単位の資金が必要になり、メーカーの保証期間が過ぎた後の修理・交換といったメンテナンス費用もランニングコストとしてかかってきます。
青森県で導入されている風車の約9割が海外製という情報もあり(2010年8月時点 ※4)、部品の取り寄せに時間もお金もかかるうえ、技術者を派遣してもらうにも渡航費や宿泊費など、諸々の費用がかさむ場合も多いようです。
このような背景を鑑みれば、地場企業のチカラに大きな期待が寄せられるのは自然の摂理といえますね。
風車での保守・点検事項は実にさまざま
2017年度から風力発電の定期検査制度が開始されることに加え、青森県にはメーカー保証期間が過ぎた風車が70基近くあり、その他120基以上の風車がすでに10年以上稼働している状況です(※5)。
風力発電施設の耐用年数は約17年といわれており(※6)、すでに初年度に設置された風車はこの年数を超えてきています。
当然、さまざまな角度から点検が行われることになります。
例としては外観などの目視点検、軸受(ベアリング)やギヤボックス(増速機)の給油点検、タワー基礎の異常や発電機といった主要機械の点検、主回路接続部などの電気点検が挙げられます(※7)。
ギアボックスは自動車に必要不可欠な部品ですから、自動車整備事業者であればその整備を長年行ってきた実績をベースに、風車メンテナンス事業への参入が可能なんですね。
弊社にお問い合わせやご相談をいただく内容で多いのは
○ 発電機-増速機間のカップリングの芯出し ○ 主軸受の劣化診断 |
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の2点です。いずれも風車特有の課題があり、お困りの場合が多いようです。
(参考:注目を集める風力発電。風車ならではの芯出しの課題とは?)
作業時間の短縮だけでは足りない?差別化のポイントは「記録・レポート化」?!
タワー上部のナセルに設置されている発電機と増速機。ブレードが風を受けることで、主軸が回転し、軸の先にある増速機が高速で回転します。このエネルギーを電気エネルギーに変換するのが発電機ですね。
私も一度、ナセルまで昇り、実際に芯出しをする様子を拝見しました。ナセルの中は想像以上に狭く、機械も多く、内部を歩きまわるには機械の上を超えていかなければならない……というまさに「びっくりぽん!」な体験をしました。
(体験談を『ベアリング新聞』に掲載いただきました。記事はこちら)
レーザー式芯出しシステム『イージーレーザー®(Easy-Laser®)』を利用したことで、作業時間を大幅に短縮できたとの評価をいただき、他のサイトでも導入いただいています。
レーザ式システムは、調整を行っている間もリアルタイムで数値が更新されるため、何度も計測を行う必要がありません。難しい操作はなく短期間のトレーニングで正確な精度の芯出しが可能です。
もう一つ、これからの風車の保守・メンテナンス業者の方々に追い風と成り得るメリットがあります。
それは芯出し調整結果をPCに転送・レポートとして出力できることです。
今後、定期検査制度が始まれば、検査項目は徐々に増え、その基準も厳しくなっていくことが推定されます。これはさまざまな業界の検査制度を見ていれば、ごく自然な流れといえるでしょう。
厳格な検査水準、提出書類が定まってから対応していては、すでに体制の整っているその他の業者との競争に敗れてしまう場合も出てきてしまうかもしれません。
翻って、今から「調整結果のレポート提出」を当たり前に行うことができれば、その点が差別化につながる可能性もあるわけです。
前者と後者、どちらが将来生き残るかは自明の理ですね。
おわりに
多額の投資をし、保守拠点の新設・強化に踏み切っている企業もあるようです。それだけ風車の保守・メンテナンス業界の展望は明るいということなのでしょう。
新規導入という観点では、洋上風車も気になるところです。日本では設置基数が少ない洋上風力発電ですが、世界ではヨーロッパを中心に多くの国々で導入されています。NEDOのWebサイトには、日本での取り組みの様子が掲載されていました。
国内発!沖合における洋上風力発電への挑戦/NEDO
他の発電事業と比べれば決してエネルギー効率は高くありませんが、目が離せない、今後発展が望める業界であることは間違えありませんね。
文/いしだ
参考:
※1 日本経済新聞 電子版 2016年4月29日
※2/3 日本における風力発電設備・導入実績/NEDO
※4/5/6/7 風力発電のこと/21あおもり産業総合支援センター