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往復動圧縮機のピストンロッド荷重モニタリング

Loads and forces affecting the condition of piston rods in recip compressors

往復動圧縮機のモニタリング(状態監視)の分野では、ピストンロッド荷重の監視も有用とされています。

本日はPROGNOST社のYouTubeから「往復動圧縮機のピストンロッド荷重モニタリング」を日本語解説でお届けします。

荷重をモニタリングすることにより、以下3つの不良検知が期待できます。
・クロスヘッドピンの潤滑不良
・クロスヘッド~ピストンロッド~ピストンの接続不良
・ピストンロッドの破損

ピストンロッドにかかる荷重とは

 
ピストンロッドに対しては、2つの荷重が掛かっています。一つ目は、ピストンやロッド自体の質量によるものです。そのためピストンとピストンロッドの大きさにより、かかる荷重は異なります。

<質量荷重>
部品質量による荷重変化を、図を用いてご説明しましょう。まず、図の横軸はクランクシャフト1回転を示しています。上死点(TDC)から下死点(BDC)、そして最後にもう一度上死点(TDC)に戻ります。

sensor position4
図内の白線は質量による荷重の変化を表しています。ピストンが引く動作の際、荷重は最大速度に達するまでマイナスとなります。その後減速し、荷重はプラスとなります。そして同じ状況が逆の方向で発生します。荷重のプラス/マイナスの切り替わり点はクランク角度90度と260度となります。

<圧力荷重>
圧力によって発生する荷重について説明します。複動式のピストンコンプレッサーであれば、トップ側とボトム側両方で圧縮をしています。ピストンが上死点にある時、トップ側シリンダ内は高圧になり、ピストンをボトム側に押します。ピストンがひかれ、下死点に達すると、ボトム側は高圧になり、クランクとシリンダ内圧力によってピストンは上死点方向へ押されます。これらの圧力荷重は、この図内の部品荷重に大きな影響を与えます。青線は圧力により発生した荷重の変化を表します。トップ側とボトム側のシリンダ内の動的圧力変化により発生した荷重です。

sensor position5

この写真で指し示されているところを起点に追加で説明します。この時、ピストンは上死点にあります。ピストンが上死点にある時、トップ側シリンダ内は高圧になるため、ピストンをボトム側に押しています。そのため、トップ側シリンダのピストンロッドに掛かる圧力荷重はプラスです。

上死点から、下死点にピストンが向かいます。この時、トップ側圧力は低下するため、下死点に至るまでトップ側の圧力荷重は低下します。下死点を通過後、再度圧縮が始まります。質量荷重と圧力荷重から算出されるロッドの荷重切り替わり点まで圧力荷重はマイナスですが、ロッド荷重の切り替わり点以降は圧縮が進むにつれて、トップ側圧力荷重は再度上昇します。

部品質量荷重と圧力荷重と、これら2つを合わせて考える必要があります。これらを合わせたものは赤線で示されています。

3つのポイント

 
sensor position5

この図から、3つの不良が推定可能です。

1. バルブ不良に伴うクロスヘッドピンの潤滑不良
クロスヘッドピンは常に潤滑状態でなければなりません。クロスヘッドピンが潤滑されるのは、ロッド荷重切り替わり時です。APIでは、荷重切り替わり点は上死点と下死点からクランク角度15度以内に収めることが定められています。

赤線に着目してください。この例では、ほぼクランク角度180度近くに荷重切り替わり点があるため、問題ありません。しかし、仮に吐出弁が破損し、吐出配管から圧縮後のガスがシリンダ内に流入した場合、シリンダ内は常に高圧になってしまいます。そのため、すべての荷重は上昇します(写真が示すようにグラフ全体が上にずれます)。その場合、ロッドの切り替わり荷重はクランク角度15度以内に収まりません。また、常に1方向にピストンを押している状態になるため、その方向でクロスヘッドピンは潤滑されなくなる可能性が高くなります。

sensor position5

2. クロスヘッド~ピストンロッド~ピストンの接続不良
ロッド荷重切り替わり時の荷重とクロスヘッド振動と組み合わせて解析することで、クロスヘッドの接続不良を検知することができます。ロッド荷重切り替わり時にクロスヘッド振動が増加した場合、接続不良を意味します。

ロッド荷重切り替わり時に、クロスヘッドとクロスヘッドピンのクリアランス部がノッキング音を発生させます。クリアランスの異常な増加(=接続不良)が発生した場合、切り替わり時のノッキング音、振動も増加します。このノッキング音の増加はロッド荷重切り替わり点のクロスヘッド振動に表れます。クロスヘッド~ピストンロッド間、ピストンロッド~ピストン間の接続はピストンコンプレッサーの機器保護において非常に重要です。そのため、これらの状態を注意深く監視しなければなりません。

3.ピストンロッドの破損
次に重要なことは、最大荷重です。質量荷重、圧力荷重、共に最大となる部分が下死点→上死点に向かう領域にあります(下図では説明者右手部分)。ロッドに掛かる荷重が圧縮機メーカーの基準を超過した場合、ロッドが破損する可能性が高くなります。

Loads and forces affecting the condition of piston rods in recip compressors7

シリンダ内圧力×クロスヘッド振動の計測で、より確実なモニタリングが可能に

 
動的圧力信号の取得ができない場合は、クロスヘッドの振動によって不良検知が可能かもしれません。ロッド荷重の切り替わり点でクロスヘッド振動のピークが大きくなるからです。

しかし、クロスヘッド振動の増加は、その他の原因で増加している可能性もあります。動的圧力信号なしでは、この振動増加の原因断定は困難です。動的圧力信号と部品の質量がわかれば、ロッド荷重の切り替わり点がわかります。もしこのロッド荷重切り替わり点付近でクロスヘッド信号の増加を確認し、ロッドの荷重切り替わり点が近くなっているようであれば、クロスヘッドの潤滑に問題が発生していることがわかります。

シリンダ内圧力の測定は重要ですが、費用が高額になりがちです。しかし、動的圧力による荷重の計算なしではAPI準拠の不良解析は実施できませんので、組み合わせた状態監視ができることが理想です。

おわりに

 
YouTubeでは同様の内容を約8分にわたり、解説しています。日本語字幕も選択できますので、お時間ある方はこちらもご覧くださいね。

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文/いしだ


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