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5.262020
機器シャットダウン直前、CMSは何を「見た」のか?
本日はコンディションモニタリングシステムの導入を検討されている方向けに、当社が取り扱いしている「PROGNOSTシステム」が取得した実際のトレンドデータとともに、往復動圧縮機での不良検知事例をご紹介していきたいと思います。
はじめに、簡単に事例の概要を記載します。計測対象機器は2011年に稼働を開始した往復動圧縮機で、クロスヘッド部に振動加速度センサ、ピストンロッド変位を見るためのロッドポジションセンサを設置し、それぞれセグメント解析を実施していました。セグメント解析とは、クロスヘッド振動はクランク角10度ごとに36セグメント、ピストンロッド変位のピーウトゥピークは45度ごとに8セグメントにわけ、解析を実施することを指します。往復動圧縮機はクランク角度ごとに、ロッド荷重や弁挙動などが定義されますので、その特徴をおさえたうえで、解析を行います。
この圧縮機は100%ロードで3カ月間安定稼働していましたが、2016年8月15日午前5:47、高圧1段のクロスヘッド振動が安全境界値を超過したため、システムが緊急シャットダウンを実施。シャットダウンまでの数か月間に取得していたデータをそれぞれ解説していきます。
ピストンロッドポジションのピークトゥピーク解析
まずは、ピストンロッドポジションのピークトゥピーク解析をビジュアル化した3Dウォーターフォールを見てみましょう。x軸(縦軸)がクランク角度ごとのセグメント、y軸(横軸)は時間、z軸が振幅値となっており、セグメント2で時間を追うごとに増加傾向(緑~黄色への色変化)が確認できます(図1)。2Dでのロッドポジションピークトゥピークのトレンドも同じく、セグメント2(赤線)で振幅の上昇がみられます(図2)。シャットダウン前の4日間のトレンドでは、より明確に振幅の上昇が確認できます(図3)。
この不良兆候をオペレーターは認識していましたが、18milsに設定された第1警告値以下の値で推移していた(図4)ことから、運転を継続していました。
第1警告値(黄色):18mils、第2警告値(オレンジ):24mils、安全境界値(ピンク):36milsに設定
クロスヘッド振動の解析
クロスヘッド振動についても確認してみましょう。クロスヘッド振動はロッドポジションのピークトゥピークと異なり、数か月間のトレンドにおいて目立った振幅の増加がなかったこともあり(図5)、機器稼働を続けていました。振幅が大きくなっているセグメントがありますが、これはロッド荷重が切り替わる時(圧縮と引っ張り)の振動であり、異常の兆候ではありません。
シャットダウン直前のオンライン信号
シャットダウン直前のオンライン信号の様子です(図6/図7)。図6ではセグメント2で15.7milsのロッド変位(緑線)が、図7ではロッド変位、クロスヘッド部振動(青線)いずれにも大きな変動が確認できます。このクロスヘッド振動の大幅な増加により、安全境界値を超過したとシステムが判断。シャットダウンに至りました。
おわりに
シャットダウン後の開放時の様子がトップに掲載した写真です。この事例におけるオペレーターの判断や対応は保全に対する数ある考え方の中の一つではありますが、①シャットダウン直前までクロスヘッド振動に明瞭な不良兆候はなかったこと、②ロッドポジションのピークトゥピーク解析でも第1警告値以下であったことを踏まえると、クロスヘッド振動が起こる直前にマニュアルで機器を停止することは難しい状況だったといえるのではないでしょうか。
仮に、PROGNOSTシステムが導入されておらず、シャットダウン機能(安全保護)がなかった場合は、図7のオンライン信号が出た瞬間にオペレーターが運転停止することは、ほぼ不可能ですから、数分後~数時間後の機器停止となってしまい、ピストンやシリンダなど、写真以上の致命的損傷を引き起こしていたかもしれません。
ロッドポジションセンサの設置については、必要性が低いとお考えの方もいらっしゃいますが、本事例のようにロッドポジションのピークトゥピーク解析で不良の兆候がつかめることも少なくありません。お客様それぞれに、センサの設置個所、警告値や安全境界値設定、シャットダウンに対する考え方があるため、システム導入時や、運用開始後にも必要に応じて、PROGNOST社とお客様の方針のすり合わせを実施しています。例えば、この機械に対してロッドポジションセンサの警告値設定を変更したいというご要望があれば、PROGNOST社の解析チームの見解も踏まえながら、警告値調整を実施することができます。
文/いしだ