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p-V線図解析によるシリンダ弁の不良検知

How to identify failures with pV diagram analyses

日本では消防法の観点から、あまり積極的に行われていないシリンダの圧力計測ですが、この計測にはメリットが多くあります。そのうちの一つがピストンロッド荷重の切り替わり点の把握による接続部の緩みの特定です。

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さらに圧力計測では、p-V線図を解析することで、圧縮室で起こっていることがリアルタイムで把握でき、吸入弁や吐出弁のバルブ不良やピストンリング破損による漏れの発生を早期検知することが可能です。そのベースとなるp-V線図とはどのようなものか、解析方法を簡単に解説していきたいと思います。

シリンダ内圧力と弁の開閉挙動の関係性

 
p-V線図の前に、まずはシリンダ内の圧力の変化と、吸入弁/吐出弁の開閉にはどのような相関があるのかを下図で確認しておきましょう。
往復動圧縮機のモニタリング オンライン状態監視システム プログノスト PROGNOST

横軸はクランク角度0-360°、ピストンヘッドが上死点(TDC)→下死点(BDC)→上死点まで1往復した状態を示しています。複動シリンダのため、トップ側動的圧力は青線、ボトム側動的圧力は緑線で表されています。2.6 barにひかれた赤線は吸入配管圧力、8.2 barのオレンジ線は吐出配管圧力です。

ここではトップ側の圧縮室とバルブに着目してお話します。クランク角度0°のときは、ピストンが上死点にありますので、トップ側圧力は吐出圧に達しています。ピストンが下死点に向かうにつれて、圧縮室内の容積が大きくなるので、圧力は急激に下がっていきます。これが(再)膨張行程です。そして、クランク角度45°では、圧縮室内の圧力が吸入配管圧力を下回ります。そのタイミングで、トップ側の吸入弁が開き、ガスが圧縮室内へと流れ込みます(吸入行程)。クランク角度180°でピストンが下死点に到達し、再び上死点へと動くことで、トップ側圧縮室の容積は徐々に小さくなり、昇圧されます(圧縮行程)。シリンダ内圧力が吐出配管圧力を上回った瞬間、トップ側吐出弁が開き、ガスが配管へと流れていきます(吐出行程)。ボトム側圧縮室ではトップ側とは反対の行程となります。

①(再)膨張→②吸入→③圧縮→④吐出

往復動圧縮機ではこの4つの行程を繰り返し行い、既定の圧力まで昇圧したガスを得ています。

p-V線図

 
横軸がクランク角度、縦軸が圧力のグラフで、シリンダ内圧力の4つの行程をご説明しました。続いてご紹介するp-V線図はこの4つの行程を同じようにグラフで表すのですが、縦軸と横軸が異なります。

往復動圧縮機のモニタリング オンライン状態監視システム プログノスト PROGNOST p-V線図

p-V線図では横軸は圧縮室内容積、縦軸が圧力となっています(上図は先ほどとは別の圧縮機のp-V線図のため、縦軸の圧力レベルは異なります)。

ケーススタディ

 
どのような不良検知が可能か、事例で確認していきましょう。下図は良好時(左上)と不良発生時(右下)、それぞれのp-V線図です。

往復動圧縮機のモニタリング オンライン状態監視システム プログノスト PROGNOST p-V線図

はじめに、圧縮行程に着目すると、良好時においては緩やかなカーブで吐出圧まで到達していることが分かります。一方、不良発生時には勾配が急になっており、通常よりも短い時間で吐出圧に達しています。

吸入行程についても同様に確認していくと、不良発生時は良好時と比べ、吸入圧に到達するまで時間がかかっていることが分かります。この現象が意味することは何でしょうか?

ここでポイントとなるのが、ガスは常に圧力が高いほうから低いほうへ流れるという原理原則です。不良発生時、通常よりも短い時間で吐出圧に達しているということは、圧力の高いガスが圧縮室内へ流入しているということになります。すなわち、吐出配管からのガス流入、吐出弁破損が疑われます。吸入行程における現象も同様に説明がつきます。吐出弁がシール性能を発揮できず、吐出配管から常に高い圧力のガスが流入している状態のため、なかなか圧縮室内の圧力が下がらない→通常時よりも大きな容積が必要になる→吸入圧に到達まで時間がかかるわけです。

このケースでは、吐出弁プレートに写真のような割れが発生していたことが開放の結果、判明しました。

おわりに

 
PROGNOSTシステムのp-V線図の自動トレンド化機能を使えば、弁やピストンリングの交換判断、低効率運転の回避と機器性能最適化の実現が可能です。

p-V線図に関する詳しい解説はPROGNOST社のYouTubeチャンネルでご覧いただけます。

bgMidashiIconPROGNOST 製品ページ

文/いしだ


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